中谷ミチコ NAKATANI Michiko

 

《夜を固める1》2019年 透明樹脂、石膏、顔料  15×15×15 cm 撮影:松原豊
Harden the Night Ⅰ(Butterfly), 2019, Resin, Plaster, Pigment  15×15×15 cm  
Photo by MATSUBARA Yutaka

 

 

  

中谷ミチコ
NAKATANI Michiko

1981年、東京都生まれ。三重県に在住、活動。

 

中谷ミチコは主に3つの手法で作品を制作している。鉛筆や水彩絵具で即興的に描かれるドローイング、粘土や石膏の立体作品、そして石膏と樹脂によるレリーフ作品である。特に3つ目の石膏と樹脂による作品は、中谷特有の手法で制作されている。
美術大学で人体塑像を中心に学び制作してきた彼女が現在の技法を「発見」したのは、2007年頃のことだという。以降、試行錯誤を繰り返し、制作へとつなげてきた。まず、立てかけた塑造板の上に水粘土でかたちを作り、塑像が完成すると、塑造板を横に倒して床に置き、周囲に縁をつけて石膏を流し込む。石膏が固まった後で粘土を掻き出し、凹んだ部分に直接着彩してから透明樹脂を流し込むか、凹んだ部分に着色した樹脂を流し込み、樹脂が固まった後で表面をフラットに磨きあげて完成する。素材の置き換えを繰り返す中で、はじめに作家の手により形づくられた塑像(粘土)は姿を消し、空虚になった部分は別の素材(樹脂)で満たされる。塑像の痕跡は残されているものの、樹脂によって隔てられており、私たちはそこに触れることはできない。また、着色した樹脂を流し込んだ場合は、表面からの距離が深くなればなるほど光が届かず、ますます色が濃くなる。塑像のときには最も手前に存在していたものが、型取りや流し込みという段階を経て、視線が届かない場所へと反転していく。中谷はこれを「不在の彫刻」と呼ぶ。目に見えるかたちで塊として目の前に提示されないことが、ここにものがある、存在するということを逆説的に証明して見せているかのようだ。
石膏と樹脂によるレリーフ作品はこれまで、絵画のような四角いフレームの中におさめられ、立体と平面の境界、存在の有無の間を常に行き来する「窓」として存在していた。しかし、近年は同じ技法を用いながらも、モチーフに沿ってかたちが切り抜かれたタイプのものや、レリーフを5面組み合わせてキューブ型にしたものなど、いくつかのバリエーションが生まれている。初期の作品では、部分的に着彩されたモチーフが透明な樹脂の内部に閉じ込められており、あたかも固い樹脂に守られているかのようである。一方、黒く着色された樹脂を流した作品は、底が深くなればなるほどに暗く沈んでいき、見る側の意識すら沈潜させていく。それが近年では一変して、表面に明るさが戻ったかと思えば、並行して暗闇を切り出したかのような立方体の作品が現れた。
近作が初期作品と異なるのは、いずれもフレームから解放され、より立体としての存在感が増している点だろう。また、モチーフそのものは光に照らし出されて立ち上がってくると同時に、その姿を見ようとすると樹脂の中に溶け込んでしまい、「もの」として眼前に存在するはずなのに実体がつかみ取れない。彫刻としての存在に近づこうとすればするほど、遠ざかってしまう。
中谷の彫刻の中には、すべてのものを飲み込むブラックホールのような場所が広がっている。作品と見る側との距離はますます近づき、両者を包む空間は果てしなく広がっていく。中谷ミチコのつくりだす小さな宇宙はこれからも私たちを柔らかく包み込み、どこまでもひろがっていくだろう。

                                                                            (原舞子/三重県立美術館学芸員)

 


 

Born in 1981, Tokyo, Japan. Lives and works in Mie, Japan.

 

 

更新された最新の情報は、作家のウェブサイトをご覧ください。
Please refer to the artist’s website for new updates.
https://www.michikonakatani.com

 

 

《夜を固める2》2019年 透明樹脂、石膏、顔料  15×15×15 cm 撮影:松原豊
Harden the Night Ⅱ(Fire), 2019, Resin, Plaster, Pigment  15×15×15 cm  Photo by MATSUBARA Yutaka

 

 

 

《蠟燭》2017年 透明樹脂、石膏、顔料 52×36×5 cm 撮影:若林勇人
Candle, 2017, Resin, Plaster, Pigment  52×36×5 mm  Photo by WAKABAYASHI Hayato 

 

 

 

未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展」での展示風景  国立新美術館 2018年 撮影:若林勇人
手前左:《空が動く》2017年 彫刻(レリーフ)/石膏、透明樹脂、顔料、鉄、麻 83×163×8 cm 手前右:《Boat》2015年 彫刻/樹脂石膏・鉄、42×110×32 cm
Installation view of Group show, “20th DOMANI: The Art of Tomorrow” , The National Art Center, Tokyo, 2018  
Photo by WAKABAYASHI Hayato 
Front left: The sky moves, 2017, Sculpture (Relief)/Plaster, transparent resin, pigment, iron, hemp  83×163×8 cm Front right: Boat, 2015, Sculpture/Plaster, iron  42×110×32 cm