椎名 絢 SHIINA Aya

《宿・中庭》  2015年  麻紙、岩絵具、水干絵具、膠 200×284cm
Inn‐Courtyard,  2015,  Linen paper, Ⅿineral pigments, Dyed mud pigments, Glue  200×284cm

 

 

椎名 絢
SHIINA Aya

1979年、茨城県生まれ 東京に在住、活動。

椎名絢は日本画の技法によって、湿った日本の風景が描きたいのだという。彼女が主題とするのは、かなり寂れてくたびれた地方の温泉旅館の畳の部屋や、そこに佇む、やはり少しくたびれた感じの中年男女であったりする。少し前の日本映画を見るような、白黒の諧調と陰影が美しい小津安二郎ではなく、名もなく忘れられる総天然色時代につくられた大衆映画の味わいがある。それを古臭くいとわしいと感じるか、レトロで素敵と感じるかは人に寄るだろうが、間違いなく椎名はそうした湿り気のある日本の風土が好きらしいのである。

 《宿・中庭》はそうした「旅館シリーズ」とでも名付けたい一連の作品のひとつで、作者が一番気に入っている絵だという。ここもかろうじて営業を続けている古い旅館だが、その中庭に庭石や石灯籠、曲がった枝ぶりの松やいくつかの庭木が雑然と植えられていて、それを二階の部屋の周囲に回廊のように廻らせた廊下から見下ろした風景である。広角レンズのカメラで撮ったように、廊下の桟はカーブを描いて歪んで見え、この2階建ての旅館の空間を迷宮のようにも見せている。向かいの回廊の桟の紅白の市松模様や、左上の廊下の天井に描かれた花模様、1階廊下のダイヤ模様のガラス障子など、細部には艶めかしい装飾があり、かつては色街の遊郭であったことをうかがわせる。真ん中で旺盛に茂る植物たちも、何やらなまめいてくねっているようにも見える。    (中略)

北澤憲昭⋆の言うように、温泉地のさびれた旅館やストリップが「汚穢の感覚に満ちている」とは過剰な物言いにも思えるし、椎名の使う色まで「画面を染め上げる濁った色づかい」と言うのには同意できないが、わたしたちが通常目にする日本画とは美しく平滑で清明な雰囲気をまとったものが多いことは確かだろう。それに対して椎名は、敢えて「穢い」ものを描いて、日本画の美意識を蹂躙しようとしているのだろうか。(⋆北澤憲昭 椎名絢個展「熱海」案内状、ギャラリーナユタ、2017年 )

 爽やかな笑顔の作者に会うと、そんな考えはたちどころに霧散するだろう。椎名の画面の色彩は濁っているのではなく、多色を背後に秘めたまま漂白されたような重層感があり、むしろレトロモダーンな懐かしさを醸し出す。大学の生物学科を卒業して社会人として6年間働いてから、もともと好きだった絵の世界に飛び込んだ椎名絢は、むしろ理科系の視点で、自分と正反対の日本の湿潤な風土を愛して観察しているのではなかろうか。《宿・中庭》は、そんな椎名の理想の風景であるように思える。年齢的にはそれほど若手とは言えないが、画家としての出発の遅かった彼女は、まだ歩み始めたばかりである。にもかかわらず、すでに独特の自分の世界を確立している。

小勝禮子「推薦文」より一部抜粋、「第7回東山魁夷記念日経日本画大賞展」図録、日本経済新聞社、2018年


 

Born in IBARAKI, Japan, 1979.  Lives and works in Tokyo, Japan.

 

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https://www.ayashiina.com/

 

《女とふとん》  2013年 麻紙、岩絵具、膠   220×360cm
Woman and Futon , 2013,  Linen paper,  Ⅿineral pigments, Glue  220×360cm

 

 

《ママの部屋》2015年   麻紙、岩絵具、水干絵具、膠 162×162cm
Ⅿama’s Room ,  2015,  Linen paper, Ⅿineral pigments, Dyed mud pigments, glue , 162×162cm

 

 

《宿・階段》 2019年 麻紙、岩絵具、水干絵具、膠    200×300cm
Inn‐Stairs ,  2019,  Linen paper, Ⅿineral pigments, Dyed mud pigments, Glue , 200×300cm